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東京高等裁判所 平成2年(ネ)3305号 判決 1991年3月28日

静岡地方裁判所上訴第七六号事件控訴人、同第七八号事件被控訴人(第一審原告) 富田眞司(以下「第一審原告」という。)

静岡地方裁判所上訴第七六号事件被控訴人(第一審被告) 石垣貢(以下「第一審被告石垣貢という。)

右訴訟代理人弁護士 吉田米蔵

静岡地方裁判所上訴第七八号事件控訴人、同第七六号事件被控訴人(第一審被告) 三倉物産株式会社 (以下「第一審被告三倉物産株式会社」という。)

右代表者代表取締役 亀井孝太郎

右訴訟代理人弁護士 倉田雅年

主文

一  第一審原告の控訴に基づき原判決を次のとおり変更する。

1  第一審被告石垣貢は、第一審原告に対し、金六六万三七九三円及びこれに対する昭和六三年六月六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  第一審被告三倉物産株式会社は、第一審原告に対し、金一五一万〇一二九円及びこれに対する昭和六三年六月七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  第一審原告のその余の請求を棄却する。

二  第一審被告三倉物産株式会社の本件控訴を棄却する。

三  訴訟費用は、第一、二審を通じて四分し、その一を第一審被告石垣貢の、その二を第一審被告三倉物産株式会社の、その余を第一審原告の各負担とする。

四  この判決の第一項1及び2は、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  第一審原告

1  原判決を次のとおり変更する。

第一審被告らは、各自第一審原告に対し、金三〇八万円及びこれに対する第一審被告石垣貢(以下「第一審被告石垣」という。)については昭和六三年六月六日から、第一審被告三倉物産株式会社(以下「第一審被告会社」という。)については同月七日からそれぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は、第一、二審とも第一審被告らの負担とする。

3  第1項につき仮執行の宣言

4  主文第二項同旨

二  第一審被告石垣

1  第一審原告の本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は第一審原告の負担とする。

三  第一審被告会社

1  第一審原告の本件控訴を棄却する。

2  原判決中、第一審被告会社敗訴の部分を取り消す。

3  第一審原告の請求を棄却する。

4  訴訟費用は、第一、二審とも第一審原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  第一審原告は、昭和六〇年二月五日、中銀ファイナンス株式会社から自己の所有する不動産を担保に金一億二四〇〇万円を借り受けたが、右借受けをするにつき、第一審被告らに共同してその媒介をすることを依頼した。

2  第一審原告は、右同日、第一審被告らから右金銭消費貸借契約成立に伴う媒介(以下「本件媒介」という。)の手数料として合計金九二八万円を請求され、同金額を同日第一審被告らに支払った。このうち、第一審被告石垣は金二〇〇万円を、第一審被告会社は銀行振出小切手により金七二八万円をそれぞれ取得した。

3  ところで、出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律(以下「出資法」という。)四条一項は、金銭消費貸借の媒介手数料をその媒介に係る貸金の金額の五パーセントに制限している。そして、これを超過する手数料の契約は無効であって、たとえ授受があってもその超過する部分の返還請求をすることが可能であり、また、一件の媒介に複数の仲介者か介在した場合においても、右制限は、一件ごとに課せられたものであって、支払い手数料の総額により右超過の有無を判断すべきところ、第一審原告が借り受けた金額は、前記のとおり一億二四〇〇円であり、その五パーセントは、六二〇万円であるのに、第一審被告らは媒介手数料として合計金九二八万円を受領したので、その合計額において制限額を三〇八万円超過する。

4  以上によれば第一審被告らは、第一審原告に対し、右超過手数料に相当する金三〇八万円を不当利得として返還すべきである。

よって、第一審原告は、第一審被告らに対し、各自右金三〇八万円とこれに対する訴状送達の翌日である第一審被告石垣については昭和六三年六月六日から、第一審被告会社については同月七日からそれぞれ支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  第一審被告石垣の請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は、認める。なお、本件媒介には、第一審被告両名のほか清水繁雄(以下「清水」という。)も加わった。

2  請求原因2の事実のうち、第一審被告石垣が本件媒介の手数料として金二〇〇万円を受領したことを認めるが、その余の事実を争う。第一審被告石垣は、本件媒介を三名が担当したことから、右二〇〇万円を媒介手数料の制限額である六二〇万円の三分の一に相当する金額として受領した。

3  請求原因3、4を争う。

三  第一審被告会社の請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実のうち、第一審被告会社が第一審被告石垣と共同して本件媒介をしたことは否認し、その余は認める。

本件媒介は、第一審被告会社が、清水の紹介により、第一審原告から単独で依頼を受け、かつ、これを実行した。

2  請求原因2の事実を否認する。

第一審被告会社は、第一審原告主張の日に同人から額面七二八万円の銀行振出小切手を受領したが、このうち金二七〇万円については、清水が本件媒介に関連して第一審原告の八水冷蔵株式会社に対する債務のうち二〇〇〇万円の減額に成功したことから、第一審原告の依頼に基づきその謝礼として、うち金三万円については、清水が本件媒介に関連して第一審原告に対して立替金債権を有していたのでその弁済として、それぞれ清水に支払い、うち金五万円については、第一審被告会社が本件媒介に関連して第一審原告に対して立替金債権を有していたのでその弁済として受領した。したがって、第一審被告会社は、本件媒介の手数料としては金四五〇万円を受領したに過ぎない。

3  請求原因3、4を争う。

前記のとおり、本件媒介は、第一審被告会社が単独で行っており、その受領した手数料は出資法の制限内である。

第三証拠《省略》

理由

一  第一審原告が、昭和六〇年二月五日、中銀ファイナンス株式会社から自己の所有する不動産を担保に金一億二四〇〇万円を借り受けたこと及び右借受けをするにつき、第一審被告会社が第一審原告から媒介の依頼を受けたことは各当事者間に争いがなく、第一審被告石垣も第一審原告からの媒介の依頼を受けたことは第一審原告と同被告との間では争いがない。また、第一審原告と第一審被告石垣との間では、同被告が本件媒介の手数料として金二〇〇万円を受領したこと、第一審原告と第一審被告会社との間では、同被告が前同日本件媒介に関連して額面七二八万円の銀行振出小切手を受領したことは、それぞれ争いがない。

二  右争いがない事実に《証拠省略》を総合すれば、

1  第一審原告は、昭和六〇年一月七日、橘田金之助らの紹介で第一審被告石垣と清水の両名に対し融資の媒介を依頼した。右両名は、翌八日、第一審原告が担保に供する予定の土地を見分し、その写真を撮影した。清水は、その後、中銀ファイナンス株式会社からの融資を受けるため、第一審被告会社にその媒介を依頼した。同被告の当時の代表取締役であった三井徹(以下「三井」という。)は、中銀ファイナンスの大木部長(以下「大木」という。)等と折衝し、また、担保に供される土地の時価を調査した。大木は、第一審原告、第一審被告石垣、清水、三井らの案内で同月一七日に右土地を見分し、担保価値があるものと判断して、第一審原告に、同会社から融資を受けるための申込を行うように指示した。

2  当時第一審原告は、八水冷蔵株式会社に債務を負い、右土地につき、同会社のために抵当権や譲渡担保を設定していたが、同会社名義とされていた土地については、所有権移転登記の抹消を求める訴訟を提起していた。そして、中銀ファイナンスからの融資を受けるためには、右八水冷蔵との間の紛争を解決し、右土地の名義を第一審原告に戻しておく必要があった。このため、三井は、清水とともに同会社の代理人である中村弁護士の事務所に趣き、事情を聴取した。

3  三井は、同月三一日、清水を通じて第一審原告に対し、中銀ファイナンスからの融資が決定したことを伝えるとともに、中央相互銀行に預金口座を作るように指示し、また、同年二月四日、右同様に、金一億二四〇〇万円の融資が決定したことを伝えるとともに翌五日中央相互銀行浜松支店に行くように指示した。

4  五日には、右浜松支店で金銭消費貸借の契約を締結する予定であったが、応接室の予約時間が切れたこともあって、第一審原告の自宅に大木、三井、清水、第一審被告石垣らの関係者が参集し、同所で第一審原告と大木の間で右契約が締結された。その際に、第一審被告石垣が媒介手数料をもらえないのではないかとの危惧をして、右締結に難色を示したが、第一審原告の長男である富田敏彦が右被告に手数料として二〇〇万円支払うことを約束したため、同被告は、清水とともに退出した。その後、第一審原告、大木、三井らは、八水冷蔵株式会社に対する債務を弁済するため、中村弁護士の事務所に赴き、前記抵当権設定登記や所有権移転登記の抹消に必要な書類の交付を受けた。そして、関係当事者間で各登記の抹消登記や中銀ファイナンスを権利者とする新たな根抵当権設定登記等の申請が受理されたことが確認されてから、六五〇〇万円の小切手が、中銀ファイナンスから中村弁護士に交付された。

5  三井は、同日のうちに本件媒介の手数料として中央相互銀行同日振出の額面七二八万円の小切手を受領し、同月七日の決済の後、翌八日、このうち二七三万円を清水に渡した。第一審原告は、その後、第一審被告石垣に本件媒介の手数料として二〇〇万円を送金した。

以上の事実が認められ(る。)《証拠判断省略》

三  右認定の事実によれば、第一審原告は、本件媒介を第一審被告石垣と清水の両名に依頼し、さらに清水の紹介により第一審被告会社が第一審原告から依頼を受け、その結果本件媒介が履行されたこと、すなわち本件媒介は、第一審被告らと清水の三名が関与して行ったことが明らかである。

ところで、出資法四条一項は、金銭の貸借の媒介を行う者は、その媒介に係る貸借の金額の百分の五に相当する金額を超える手数料の契約をし、又はこれを超える手数料を受領してはならないと定めているところ、同項の制限を超える手数料の契約をした場合には、その超過した手数料の分についての契約は無効であり、右媒介を行う者がこれを超えて手数料を受領した場合には、超過分については、不当利得として支払者にこれを返還することを要するものと解すべきである。そして、本件のように一件の金銭の貸借の媒介を複数の仲介者が行った場合においても、右の制限は、仲介者毎に適用されるのではなく、一件の金銭の貸借についての手数料の全体について適用され、各仲介者の受領する手数料の総額につき、その制限を超過することができないものというべきである。これを仲介者毎の制限であるとすれば、複数の仲介者が介在するときは、一件の貸借について百分の五を超える手数料の授受が許されることとなるが、このような結果は、制限を超える手数料の負担をさせないことによって借受人を保護しようとする右規定の趣旨に反するからである。

そこで、第一審原告が本件媒介のために支払った手数料について見ると、前示認定の事実によれば、第一審被告石垣に支払った二〇〇万円がこれに該当することは明らかである。次に、第一審被告会社が受領した七二八万円の小切手について見ると、同被告は、このうち、本件媒介の手数料として金四五〇万円を受領したに過ぎず、うち金二七〇万円は、清水が本件媒介に関連して第一審原告の八水冷蔵株式会社に対する債務を二〇〇〇万円に減額させることに成功した謝礼であり、うち金三万円は、清水が本件媒介に関連して立て替えた金銭に対する弁済金、うち金五万円は、同被告が本件媒介に関連して立て替えた金銭に対する弁済金であると主張し、第一審被告代表者尋問中にこれに沿う供述がある。しかしながら、清水の謝礼と主張する右二七〇万円分については、第一審原告が清水に本件媒介とは別個に八水冷蔵株式会社に対する債務者の処理を依頼したことを認めるに足りる証拠はない上、清水の第一審原告に対する領収証には仲介手数料として受領したことが明記され、債務の処理の報酬等についての文言がないことに照らすと、右供述を採用することができず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。立替金債務の弁済と主張する合計金八万円については、同被告がその具体的内容を明らかにしないところ、出資法四条二項が、金銭の貸借の媒介を行う者がその媒介に関し受ける金銭は、礼金、調査料その他何らの名義をもってするを問わず、手数料とみなして前項の規定を適用すると定めていることから、これを手数料とみなすべきである。

してみれば、第一審原告は、本件媒介のため、合計九二八万円の手数料を支払ったこととなるが、前示のとおり、第一審原告が本件媒介により融資を受けた金額は一億二四〇〇万円であるから、同条一項に定める手数料の制限額は、右金額の五パーセントである六二〇万円となり、したがって、これを超過する金三〇八万円についての手数料の契約は、同法に違反する過払い手数料の約定であって無効である。

ところで、本件のように一件の金銭の貸借の媒介について、複数の仲介者が依頼者から受領した手数料の総額が出資法に定める手数料の制限額を超えるときは、前述のように、当該超過額を不当利得として依頼者に返還すべきであるところ、各仲介者は、それぞれが現実に受領した額によって按分した超過額を不当に利得したものであり、これを依頼者に返還すべきものと解すべきである。このことは、一部の仲介者が他の仲介者の手数料分も代表して受領し、これを受領者の判断により他の仲介者に分配した場合においても同様である。そうとすれば、依頼者は、それぞれの仲介者が現実に受領した額を基準としてのみ超過手数料の返還を請求することができるに止まるものというべきである。

そうすると、第一審被告石垣は手数料として二〇〇万円を、第一審被告会社は手数料として七二八万円をそれぞれ受領し、第一審被告会社はこのうち二七三万円を清水に交付したことは前認定のとおりであるので、超過手数料三〇八万円のうち、これを九二八に分け、これに二〇〇を乗じた金額である六六万三七九三円(一円未満切捨て)については、第一審被告石垣が、これに四五五を乗じた金額である一五一万〇一二九円(一円未満切捨て)については、第一審被告会社がそれぞれ第一審原告に不当利得として返還すべきこととなる。そして第一審原告主張の日に本件訴状が第一審被告らに送達されたことは記録上明らかである。

四  以上によれば、第一審原告の本訴請求は、第一審被告石垣に対し、金六六万三七九三円及びこれに対する昭和六三年六月六日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払いを、第一審被告会社に対し、金一五一万〇一二九円及びこれに対する昭和六三年六月七日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払いをそれぞれ求める限度で理由があるが、その余は失当として棄却すべきである。

よって、右と結論を異にする原判決は不当であり、第一審原告の本件控訴は、右に示した限度で理由があるから、原判決を変更し、第一審被告会社の本件控訴は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 橘勝治 裁判官 小川克介 南敏文)

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